東京・東十条で『とんぼ玉とミクロモザイク 海津屋』という工房を運営しているなかの雅章さん。自身の作品を制作するだけでなく、ワークショップやクラフト教室も開催しています。 「とんぼ玉・ミクロモザイク」アーティストとして活動する上でのやりがいや今後の目標、若者へのメッセージを語っていただきました!

■「とんぼ玉」とは

「とんぼ玉」は、穴の開いたガラス玉に絵や柄を施している装飾品です。その起源はメソポタミア文明にまでさかのぼるともいわれ、エジプトや中国、イタリアやインドネシアなどさまざまな国でつくられています。

日本では奈良時代には生産されていたと考えられています。江戸時代には一般庶民の間でも根付けやかんざしの装飾品などとして親しまれ、現在はネックレスやブレスレットなどのアクセサリーや帯留めとしても人気です。

とんぼ玉のアクセサリー

とんぼ玉作品『大黒天と恵比寿天』。
大きさは直径2~3㎝ほど

■「ミクロモザイク」とは

「ミクロモザイク」は、熱したガラスを糸のように細く伸ばしカットしたガラスの小片を型枠の中に敷き詰め、花や動物、建物や風景などを描く芸術品です。

18世紀にローマで高級土産として、アクセサリーが誕生しました。テーブルのような大型作品からブローチ、ピアスといった小物までさまざまな作品が存在します。

19世紀にはローマやヴェネチアで一般的な土産物として人気を呼んだものの、現在は職人が激減し、工房も数えるほどとなっているそうです。

「ミクロモザイク」制作の様子

■宝石よりも「ガラス」に魅了され、とんぼ玉作家の道へ

――なかのさんが「とんぼ玉」の作家になるまでの経緯を教えてください


最初はジュエリー作家になろうと思い、『日本宝飾クラフト学院』に入学。そこでとんぼ玉に出会いました。

宝石は使用する天然石や金属の色と、その重さだけで大半の価値が決まってしまいますが、とんぼ玉は色遣いの多様さ、自由な表現方法などに惹かれ、趣味として制作していました。

卒業後は26歳くらいまでリングやブローチなどの原型をつくるシゴトをしていましたが、続けているうちに「もっといろいろな美術作品に生で触れたい!」と思いシゴトを辞め、美術館めぐりをするためにスペイン留学をしました。

スペインを選んだ理由は「この美術館や作品を観たい!」というより、高校生のときにフラメンコが好きだったからなんですよね(笑)

帰国後は1年ほど長野県・蓼科(たてしな)の『蓼科ガラススクエア』(現在閉館)で、とんぼ玉制作のインストラクターをやっていました。とんぼ玉制作をシゴトにしたのはこのころからです。

そのご、徐々に「独立して工房をつくりたい」という思いが強まっていき、インストラクターを辞めて作家として独立することにしました。

ちょうど東京の実家の2階に空きスペースがあり、2000年28歳のときにとんぼ玉の工房兼教室を立ち上げたというわけです。

■ローマの工房に飛び込みミクロモザイクの技術を学ぶ

――「ミクロモザイク」作家になるまでの経緯も教えてください


ミクロモザイクの存在はもともと知っていたんですが、本物に出会ったのは2011年ごろで、デパートでとんぼ玉の作品展を開催していたときのことでした。

あるお客さまが「こういう作品をつくるなら興味があるんじゃない?」と懐に持っていたブローチを見せてくれたんです。それがヴァチカンの広場が描かれたミクロモザイクの作品でした。

とんぼ玉制作の技術を応用することでガラスパーツはつくれるので、自分でもつくってみたいと思い興味が抑えきれなくなったんです。

情報を集めているうちに本場ローマの作家にコンタクトが取れたので、イタリア語はおろか英語もままならない状況でしたがイタリアに行って会うことにしました。

最初に出会った作家はミクロモザイクではなく絵画のモザイクが専門だったりと、すべてが順調に進んだわけではありませんでしたが、なんとかミクロモザイクの工房を見つけて、飛び込みで自分のとんぼ玉とガラスパーツを見せました。

おもしろいと感じてくれたようで「もっと作品を持っておいで。スケジュールが合うかどうかわからないがマエストロ(イタリア語で師匠の敬称)にも会わせたい」と言ってくれたんです。


――そこでローマの作家との出会いがあり、技術を学んだんですね


ローマ滞在中に何度もその工房に足を運び、少しずつ技術を教えてもらいました。ほかの作家の工房を訪ねたり、路上でミクロモザイクを施したジュエリーを売っている人を見つけるといった偶然の出会いもありました。

帰国後試作を重ね、約4年かけて、自分のミクロモザイクを完成させ、「とんぼ玉・ミクロモザイク」作家として活動を始めました。

どんな世界でもそうだと思いますが、作家が自分の技術のすべてを教えてくれるわけではありません。基礎を教わってから「自分の色」を出すためにかなり試行錯誤をしました。

ミクロモザイク作家として活動を始めてからも機会をつくっては何度もローマに足を運び、現物をチェックしたり作家たちと情報交換したりしています。それでも学びたいことはまだまだ山積みです。だからこそ学び、発展させていく必要があるのだと思います。

■2~3cmのガラス玉の中にどれだけの表現を詰めこめるかが勝負

――「とんぼ玉」制作の流れはどんな感じなのでしょうか?


ガスバーナーで熱して溶かした棒ガラスをステンレス棒に巻きつけて柄や画などを入れ冷まし、最後に棒から抜いてできあがりという流れです。

「大黒天と恵比寿天」のような絵柄を施すものはパーツの作成も含め完成までに何ヶ月もかかる場合もあります。色の組み合わせや、熱の加減で仕上がり後にガラス玉が割れることもあります。制作に何ヶ月もかかった作品が仕上がり直後に割れるとさすがにへこみますので、そういったときは気持ちを切り変えるために全力で気分転換に努めます(笑)

棒ガラスをあぶって少しずつ溶かします

溶けたガラスが十分な大きさになったら
ステンレス棒を温めはじめます

ガラスをステンレス棒に巻きつけていきます。
ここでほかの色のガラスを入れて模様を施します

わらの灰にとんぼ玉を入れて1時間ほどかけてゆっくり冷やします

――「とんぼ玉」の作品をつくるやりがい、魅力を教えてください


とんぼ玉は装飾品のため直径が2~3cmほどの球体です。その小さな球体にどれだけ表現できるかを試されているような感覚があり、挑戦しがいがあります。

僕の場合は装飾品としての“球”をつくるだけではなく、この技術を応用して龍や大黒天などのフィギュアに近い作品もつくっています。

■作品完成に3ヶ月かかることも

――「ミクロモザイク」の制作の流れも教えてください


「ミクロモザイク」は型枠の中に特殊な粘土を敷き、2~3ミリほどの長さにカットしたガラスをぎっしりと埋めていきます。

制作期間は作品のサイズにもよりますが、たとえば直径約8cmの「狩り」という作品は完成までに3ヶ月程かかりました。

ミクロモザイクの作品「狩り」



――「ミクロモザイク」をつくる上でのやりがい、魅力を教えてください


細かなガラス片を使用するので集中力が必要になりますし、1日かかっても作品のほんの一部分しかできあがらないこともあるため、完成するとやはり達成感があります。

また、国産ガラスを使っているので、日本オリジナルのミクロモザイクができあがります。イタリアの古い技法を研究し復活させ、かつ日本独自のミクロモザイクを開拓していくことにやりがいを感じますね。

■愛されるアクセサリーから「家宝になるような美術品」へ

――今後の目標を教えてください


とんぼ玉とミクロモザイクをより多くの人に知ってもらいたいです。そのため、一般の人が制作をして楽しめる教室を開催していますし、児童館やデパートに赴いて体験教室を開くこともあります。

一方で、ミクロモザイクは“カジュアルな装飾品“としてだけでなく、美術作品としても広めたいと思っています。今後は壁掛けのミクロモザイク絵画作品など、美術サロンで販売できるような作品を発表していきたいと考えています。

■ムダなことはないからいろいろ経験したほうがいい

――日本では数少ない「とんぼ玉・ミクロモザイク」作家として活動するなかのさんから、はたらくことやシゴトについて悩める若者に向けてメッセージをお願いします

もし芸術家になりたいという人は、海外旅行にたくさん行ったほうがいいですね。自然・風景・建物などの色合いは生で見て体感しておくべきだし、一人で海外旅行に行けば度胸も身につきます。

芸術家としてたくさんのことを吸収するために、経験したことがない世界に飛びこむときなど、度胸が必要な場面は多くあるのではないかと感じています。

僕が最初にスペインに訪れたときは、言葉も文化もまったく知らない状態で行きました。

スペインは昼食後に昼寝をする「シエスタ」という文化があるんですが、知らなかったので「昼間に出かけたらどこもお店が閉まっていた」なんて経験もありました(笑)

若い人は今、自分が直面している大変な勉強などについて「これって将来の役に立つのか!?」なんて考えることも多いと思います。でも、苦労して学んだことが後々になって自分のためになることも多いです。

僕はいろいろな美術作品を学ぶために海外留学をしただけではなく、七宝焼き(しっぽうやき)や彫金(ちょうきん)、鍛金(たんきん)、陶芸など関連しそうな技術は独学あるいは学校の先生に教わって一通り経験しています。

これまで“ものづくり”を軸としながらも、扱う対象をいくつも変えてきましたが、いろんな場所で身につけたスキルが思わぬところで何度も役立っています。ただ、僕の場合は最終的にとんぼ玉とミクロモザイク作家という、ある種ニッチな領域に進んだのもよかったのかもしれません。

もし海外旅行に行く時間やお金がなければ、ひたすら日本の雑貨屋や美術館に行くだけでも普段とは違った刺激が得られます。僕が作品モチーフの着想を得るのは、散歩をしていて「こんな色を使ってみたいな」と考えることが一番多いんです。

何気ない日常生活の中にもヒントがありますから、どんどん外に出て感性を磨くのもいいかもしれません。


――ありがとうございました

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