少数民族の伝統的な刺繍や織物、染物などの手工芸品と、それらを使ったリメイク商品やオリジナル商品販売を行っているかたに、起業までの道のりやバイト経験から得たことなどをインタビューしました!

好きなことから始まった、社会問題に向き合うシゴト

東南アジアを中心としたターイ族やモン族などの少数民族の伝統的な刺繍や織物、染物を使った雑貨や衣装を買いつけ、国内のイベントやネットショップを中心に2008年から販売を始めました。ショップ兼アトリエ『ノマディックラフト』を夫婦で立ち上げてからは、少数民族の布や刺繍を使った一点物のリメイク製品やオリジナル商品の制作・販売も行っています。

買いつけ品のひとつ、モン族の古布。15cmほどの布地に、細かな刺繍やパッチワークがびっしり施されている

独特の装飾や珍しい文様が入った少数民族の衣装に興味をもったのは、高校生のとき。海外のミュージシャンがファッションに取り入れていたジャケットやバッグが目立っていてカッコよかったんです。それをシゴトにしたいと思ったのは、約9年間はたらいていたアパレル会社を辞めてフリーライターとして活動していたころです。自営業に慣れてくると、「会社員じゃないんだから、なんでも好きなことをやればいいんだ!それなら少数民族の雑貨を扱うシゴトがしたい」という気持ちが膨らんでいきました。

最初は、立地的に行きやすい東南アジアから趣味である旅を兼ねて買いつけに行き、ネットショップで販売するつもりでした。ところが、よくよく調べていくと、東南アジアの少数民族が人権問題や貧困格差などの問題を抱えていることを知り、安易に扱うものではないかもしれないと迷いはじめて。何かうまく彼らの生活をサポートできる形でできないかと現地で活動をしているNPO団体にコンタクトを取り、少数民族がつくる製品をフェアトレードできるように相談しました。

相談していたNPO団体のかたから「まずはトライアルで販売してみては?」というアドバイスをもらい、手始めにオーガニック&エコロジー製品を販売するイベントに出店。お客さまの反応を目の前で見て、手ごたえを感じました。これは続ける意味があるかもと思い、未熟ながら勢いに乗ってイベントやネットショップでの販売をシゴトとしてスタートしました。

行動を変えたから得られた「考える力」と「コミュニケーション力」

直輸入で仕入れた商品に値段をつけ、販売する――個人での商売経験がない中、頼りになったのは大学時代のあるバイト経験でした。当時から好きだった旅行の資金を貯めるため、たくさんのバイトをしましたが、マーケティングリサーチと塾講師のバイトは多くの学びがありました。

マーケティングリサーチのバイトは、「覆面調査」でさまざまな店舗を回り、携帯電話の価格を調べるバイトでした。たくさんの店舗を調査しなければならなかったので、どれだけ効率よく回って、目立たず間違えず価格を書き留めるかなど、やりかたを工夫するようになりました。早くシゴトを終えて遊びに行きたかっただけですが、結果「考える力」を鍛えられましたね。

回数を重ねるうちに、賑わっている店とそうでない店の差に気づくようにもなりました。賑わっている店は、商品の安さだけではなく、接客が上手でお店の雰囲気が明るいんです。今、物を売る立場として値段の設定やお店の構えかたを考えるのにとても役立っています。

塾講師のバイトは勤務期間に比例して昇給する制度だったのですが昇給額が低く、どうしたら評価してもらえて時給が上がるかを考えていました。そこで得意教科の指導実績をアピールして別の塾にアプローチしたところ、時給が1.5倍に。「自分から行動しないと損」と実感したと同時に「得意分野を活かしてアピールすれば、こんなに条件が変わるんだ!」ということを学びました。

それは生徒との関係性にもいえること。私がはたらいていた塾にはいろんなタイプの生徒がいて、決して成績が良い生徒ばかりではありませんでしたし、中には勉強することをあきらめている生徒もいました。でもちゃんと話を聞くと関心や自信を持てていないだけで、接しかたや勉強方法を変えればぐんと成績が伸びるんです。高校進学をあきらめていた生徒が、志望校に合格したこともありました。

自分のやりかた次第で、現状を変えることができる。時給の良さが魅力で始めた塾講師のバイトでしたが、それ以上にコミュニケーション力が磨かれました。それは今のシゴトにも根づいています。

失敗もが糧に。「怒られない」のはつらいこと

高校時代にケーキ製造工場でバイトをしていたとき、ケーキを積んでいた棚にぶつかって、何箱も倒して商品のケーキをダメにしてしまったことがあります。すぐに謝ったのですが、上司は怒らなかったんです。ただ何も言わず、怒りもしない。自分の存在を消されたようで、とてもショックでした。

怒られるのはもちろん怖いし落ち込むけれど、嫌われているわけでもないし、相手も憎くて言っているわけでもない。ただ同じ間違いをしないように注意を促すためのもので、自分を“受け止めてくれる”行為なんだときづき、怒ってくれる人のありがたみがわかるようになりました。

そのあとは、その上司に「しっかりしているところを見せないと」という思いでバイトを続けました。嫌なことがあったり怒られたりしたら辞めたくなるけど、「怒られる」というのは、そのときだけの問題で、相手も長くは気にしていないもの。辞めずに続けたことで、失敗や落ち込んだ気持ちを引きずらないで、「自分の心を整理する」テクニックが磨かれました。

無理をしない。だから続けられて繋がっていく

手さぐり状態で事業をスタートしましたが、多くの人に支えられながら続けられています。イベントなどで知り合った人が、ビジネスを広げるキーマンになったり、困ったときに助けてくれたり。起業してから、人脈の大切さを実感するようになりました。

人脈を広げようと、無理をしてまで交流を深めるのは好きではありません。それよりも自分からあいさつをして、二言三言コミュニケーションを取る。そのちょっとした会話の中にヒントが詰まっていることも多いんですよね。「あのとき、あんなふうに出会った人と、こんなおつき合いになるなんて!」ということは、日常茶飯事。ご縁のおもしろさは、のちのち振り返ってみてわかります。

うれしいことに、商品を手に取って喜んでくれるお客さまが増えて、それを手づくりしている少数民族の人たちにささやかながら恩返しができています。現地に行く機会も増え、「旅」と「少数民族の商品を扱う」という大好きなことがシゴトとしてひとつになっていくプロセスがとても楽しくて幸せです。私自身は輸入業に精通しているわけでも、少数民族の村で住み込みで生活をサポートしているわけでもありません。それでも自分ができることを、できる規模で「無理なく」続けていくことに価値があると思っています。

少数民族がつくる伝統的な刺繍や織りの文様には、厄除けやお守りなどさまざまな意味が込められているんです。古くから受け継がれてきたストーリーがある魅力的な商品と、これからも携わっていきたいです。