独立して前掛け専門店を経営されているかたに、独立までの道のりや役立っているバイト経験などをインタビューしました!

「漢字Tシャツ」ショップからオンリーワンの前掛け専門店へ

新卒で入社したのは菓子メーカーです。5年間、営業部門ではたらき、27歳でTシャツに漢字をプリントして販売する会社を立ち上げ、脱サラしました。子どものころから「起業して独立する」と決めていたのですが、社会勉強も必要と感じたため企業に入り、多くの事を学びました。

大学時代に海外留学を経験していたこともあり、「日本」や「和」に関する物を世界に広めたいという強い想いで、「漢字Tシャツ」を国内外に販売していたのですが、あるとき、行きつけの問屋さんで無地の前掛けを見つけ、Tシャツの代わりに漢字をプリントして新商品として販売しました。

なかなか好評だったので、前掛けの布がどこでつくられて、どんな染めかたをしているのか知っておこうと産地を調べたのですが、なかなか見つからない。全国各地に電話し半年後、愛知県豊橋市が日本唯一の産地だということがやっとわかったのです。

すぐに現地まで足を運びました。やっと1軒残っていた工場ではたらく職人は50代後半、しかも60歳になったらもう辞めると話されました。そこには、技術の引き継ぎ手がいなくなり、安い海外産に押されて生産もわずかという絶滅寸前の現状がありました。

前掛けの布は、太い糸で厚く織ります。でも体にフィットする柔らかさが必要ですから、職人が縦糸と横糸を調整することで、丈夫で動きやすさのある布に仕上がるのです。でも、職人がいなくなり、工場がなくなれば、この日本の技術は途絶え、もう二度と生地がつくれなくなってしまう。それを知り、「この前掛けを残すんだ!」と、その日にTシャツ屋から前掛け専門店にすることを決心しました。

魅力をアピールし続けて販売数が増加

2005年に前掛け専門店『エニシング』になりましたが、2年間はほとんど売れませんでした。月10枚売れるか売れないかくらいです。とにかく前掛けの良さを知ってもらおうと、ホームページを工夫したりビラを配ったりしてアピールを続けました。

2007年にテレビで取り上げてもらえ、2日で400枚ほど売れたことがありました。でもその売上は自分たちの努力ではないから「すぐ使おう!」と、その資金と前掛けを持ってニューヨークへ営業活動に行きました。その結果、2009年にはニューヨークで展示販売会をすることに。2013年からは、毎年ニューヨークとロンドンで展示販売会を行い、とても好評です。

国内でも、日本を訪れる外国人のお土産として人気急上昇。もともと前掛けは、着物を汚したり破れたりしないようにするためと、腰骨でギュッと結ぶことで腰を守る役割があります。それから、屋号やロゴを入れて広告や宣伝としての効果もあるんです。エプロンとは違って、文様や屋号などが正面に大きく入った日本独自の前掛けは、外国人から「スタイルがクール」と魅力的に映るようです。まずは多くの人に前掛けを知ってもらい、その魅力を伝えたことで、今では年間5万枚を売り上げるまでになりました。

バイトやシゴトから学んだ社会の常識

同じように起業・独立している人と出会い、多くの影響を受けましたが、一方ですぐに廃業になってしまう人もいました。事業が長く続いている人の周りには、世代を超えた友人がたくさんいて、いろいろな価値観を自分の中に吸収しています。僕の周りも80歳を超える職人から、一緒にはたらく若い世代、学生まで幅広い人間関係があります。企業ではたらいたことも、大学時代の留学経験もバイトも、さまざまな人と出会ったり話したりできるとてもいい機会でした。

初めてのアルバイトは、留学資金を貯めるための深夜のコンビニスタッフと早朝の野菜の仕分け作業です。留学するまでの2年間はたらきましたが、お金のためだけではなくて、社会の常識を教えてもらったなあと思います。そのときのバイトの店長や一緒に野菜の仕分けをしていたおばあちゃんから、挨拶、お辞儀の角度、受け答えかた、おつりは両手で渡すことまで……、常識として知っておきたいことをたくさん学びましたね。

世界中から見学に訪れる前掛け工場にしたい

廃業寸前だった豊橋市の前掛け工場を、『エニシング』が引き継ぐことにしました。織り機も技術も、世界中でここにしか残っていないからです。工場ではたらく若手を3人採用して、職人から貴重な技術を教えてもらっているところです。今年2017年には、工場を移転する予定です。移転先では、日本のモノづくりの過程を一般の人にも見てもらえるように見学スペースを設けようと計画中です。世界中から見学に来てほしいですね。2020年ごろには、日本に興味をもつ外国人もこれまで以上に増えるはずです。前掛けは商人がユニフォームとして着用して、お客さんをもてなしていました。ある意味“おもてなしの象徴”です。日本流のおもてなし商品として、より良いものをつくり、前掛けを世界にアピールしていきたいです。