料理研究家として活躍されているかたに、これまでの道のりや、役立っているバイト経験などをインタビューしました。

かっこいい”と思うシゴトを書き出したらやりたいことが見えた

「何かを目指したい!」という強い想いがもともとあったわけではありません。大学までの進路も何かと周りの人に勧められたものを選んできたし、大学時代は友人から誘われるまま、公認会計士の講座を受けていたくらい。大学2年生の夏、本当にこのまま会計士になりたいのか、初めて自分自身のやりたいことに向き合いました。

計算用紙として使っていた真っ白の紙を前に、やってみたいシゴトをマジックで書き出しました。「会計士……いや、違う!」と、頭の中に浮かぶことを、そのまま書き出してみた。紙に書いては丸めて捨て、と繰り返していたら、何者になりたいのか書くことがなくなってしまって。

それなら、“カッコいい”と思うシゴトを書き出してみようと、もう一度マジックを持ち直したら、すらすらと、それもたくさん出てきたんです。「バーテンダー、パティシエ、バリスタ、ミュージシャン、デザイナー……」。見事に、横文字ばかりでしたが(笑)。でも、自分の中にたくさん「やってみたいこと」を持っていたと気がついたんですよね。それがうれしくて。

それで、紙に書いたカッコいいシゴトを全部やってみよう!そのためには「カフェを開けばカッコいいシゴトが全部できそうだ」とひらめきました。「カフェでお酒を出せばバーテンダーができるし、お菓子を置けばパティシエも。ライブを計画してミュージシャンデビュー。広告やチラシ、雑貨も自分でデザインできる!」と。

その翌日、今まで一度も休まなかった大学の講座を途中で抜け出し、シフトは入っていなかったのですが、当時バイトをしていた『スターバックス』へ直行し、カフェを開業するための勉強やイメージづくりをしていました。やることが定まってからの「勉強」って驚くほどおもしろく感じたのを覚えています。

それから、カフェを開くために料理を学ぼうと、飲食業を中心に多くのバイトをしました。忙しい店のほうが学べることがたくさんありそうだと思い、有名なイタリアレストランではたらいたり、バイト仲間に紹介してもらっいスイーツをつくれるカフェではたらいたり。多いときは、4つのバイトをかけもちしていました。でも、厨房を希望しているのに、バイトはなかなかキッチンに入れない……。

そんなとき、たまたまテレビ番組で見た料理研究家である栗原はるみさんの特集に感銘を受けました。栗原さんはレシピ作成だけではなく、キッチン雑貨から服、家のデザインまで、住空間そのものをプロデュースしている。「カフェにこだわらず、料理研究家になればいいんだ!」と、目が覚めた思いでした。

バイト時代の人脈が独立の手助けに

21歳で料理研究家として独立しましたが、料理の経験はまったくない状態。手持ちの資金4万円で事業登録をして営業をかけました。初めは出版社にレシピ本の企画を持って行ったけど、全然取り合ってもらえず……。このやりかたではダメだと思い、地元の飲食店を自転車で回り、料理の写真を撮るシゴトをもらったり、フリーペーパーで食に関するコラム企画を出したりして土台づくりを始めました。

バイト先では積極的に楽しい職場づくりをしたいと思っていました。飲み会を開いたり、バイトが終わったあとに遊ぶ計画を立てたり、送別会や誕生日会など、ことあるごとに企画をしました。そのおかげか、バイトを辞めてからもスタッフと繋がりがあり、そのご縁でテレビ制作会社に勤めている人と出会い、シゴトを紹介してくれました。チャレンジする若者に世の中は優しいんです。企業に就職しないで自分の道を生きようと思って周りの人に相談したとき、「やってみたら?」と背中を押してくれたのは、一番長くはたらいた『スターバックス』の店長でした。ほかにも応援してくれるバイト仲間にパワーをもらいながら、精力的に動きました。

独立で重要なのは活動時間の確保と常に収支を黒字に保つことです。活動を最優先し、週1~2日はファミリーレストランで5時間バイト。活動資金が必要なときは、入金の早い日払いのバイトを半年で15回ほどしていました。実家暮らしだったため家賃や光熱費などの固定費の支出はなく、活動資金は交通費や人脈を広げるための飲み代がメインでした。固定費をかけないで独立するには、バイトで収支を黒字に保ちながら、活動時間を極力つくるのがベストだと思います。

独立して1年で本を出したいと思っていたところ、10ヶ月で達成。人に恵まれましたが若いうちに行動すれば結果がどんどんついてくるんだなぁと思います。メディアへの露出や大手企業とのコラボ企画が進むうちにシゴトが増えて、個人で活動するよりもチームでもっと大きなシゴトがしたいと思い、2009年に『フードクリエイティブファクトリー』を設立しました。

やりたいことをやるって、楽しい!

今振り返っても、夢をカタチにしようとトライ&エラーを繰り返していたバイト時代は本当に楽しかった。“やってみたい”“カッコいいシゴトだな”と、思う感性はすごく貴重で、人それぞれ違う色をした宝石みたいなものだと思うんです。将来の生活を心配するより、その感性を信じて楽しい未来を創るために動いたほうがきっと楽しい。だって、起業して失敗しても死ぬことはないし、失敗は次に活かせばいい、むしろ良いことが重なるだけと思っていました。

大学時代に手持ちの資金で始めた起業ですから、お金を借りることは計画外でした。一生返済しきれない借金を背負うなんてことは、あり得ないこと。そういう意味で料理研究家としての独立は、心配よりもワクワク感のほうが大きかったです。やるだけ挑戦したあとは、きっと今よりも魅力的な自分になれるだろうと考えていましたから。その気持ちは現在も続いています。

料理経験もなかったのに、今ではレシピ開発だけでなく、食に関わる記事や動画の制作、そして海外に向けた和食の発信なども行っています。結果的に料理研究家を選んだことで、やりたいことがどんどんできるようになりました。ワクワクしながら料理をする人を増やしたいと、講演やコンサルティング、料理教室なども行っています。

もっともっと「食」で人を幸せにしたい

「大切な人との暮らしをもっと楽しく」が、企業理念です。僕たちがつくったレシピをたくさんの人に届けて、受け取った人が、すごくおいしかった、誰かにつくってあげたい、と喜んでくれる場面を、もっともっと増やしたいと考えています。美味しい料理を囲んで、大切な人と素敵な時間を過ごす人がどんどん増えていったら、僕たちが生きる社会はもっと楽しくて、安全で、居心地がいいと思うんです。

企業理念の中には「大切な人との時間を大切にする」という言葉が含まれています。生活のベースにある、一番大切なことですが、当たり前すぎて忘れがちですよね。シゴトをしたり、食べたり、遊んだりする、当たり前の生活の中で、家族や友人や仲間と過ごす時間を大切にする気持ちを忘れずにいられたら。その中心に僕たちが届けるレシピがあれば、うれしいです。これからも、暮らしを楽しくする美味しいコンテンツを多くの人に届けたいと思っています。