アーティストとして独立されたかたに、独立のきっかけや、今でも役に立っているバイト経験についてインタビューしました。

やっぱり絵を描くのが好き!デザイナーからアーティストとして独立

小さいころから絵を描くのが大好きで、将来は漠然とファッションやアートに関わりたいと考えていました。高校卒業後は、デザイナーになりたくて地元のファッション専門学校に入学。でも日本の専門学校は、どちらかというとデザインよりも服づくりの技術育成に力を入れているんです。一方、海外ではデザインの勉強に集中できると知り、専門学校を卒業したら、大好きなデザイナーのいるイギリスで学ぼうと海外留学を決めました。

調べてみると、イギリスの学校に行くためには2年間で800万ほど必要。すべてはムリでも、専門学校を卒業するまでにできる限り留学費用を貯めようと、アパレル販売やイベントスタッフなど、いろいろなアルバイトをして、とにかくがむしゃらにはたらきました。イギリスに行ってからも日本食レストランや美容室、観光案内などのバイトをして生活費を補っていました。

イギリスで2年間デザインを学び、2010年に帰国しました。1年ほど地元でTシャツのブランドを立ち上げて活動していましたが、なんせ学生から急に商売をはじめても、右も左も分からない状態。すぐに壁を感じて、「これはまずいぞ、一度就職したほうが経験になる」と一念発起。大手のアパレル企業に就職し、ファッションブランド『TAKEO KIKUCHI』のデザイナーに配属されました。好きなファッションデザインのシゴト、そして憧れの一流ブランドのデザイナーやディレクターと関わることができ、多くの経験を積みました。

憧れのシゴトについて、4年目。ふと、「自分が本当にやりたいことって、なんだったのかな」と思うきっかけがありました。それは、同世代のアーティストたちの個展に呼ばれて、クリエイティブな作品に触れたとき。過去を振り返ってみると、デザインが好きなのは、そもそも「絵を描くことが好き」だったことに気づいたんです。約10年間、ファッションを学んできたのに、アーティストに転身するという決断は難しかったんですが、“本当に好きなこと”をシゴトにしたいとの思いから、30歳手前で大好きな「絵」で勝負しようと、アーティストとして独立することに決めました。

アパレル販売のバイトで学んだ、コミュニケーションスキル

専門学生時代、いちばん長くやっていたバイトはアパレルショップの販売員です。販売員はお客さまに声をかけてセールストークをしなければならないので、話のきっかけをつくるために、まずはお客さまの“いいところ”を必死で探します。それは、もうクセのようになってしまって、社会人になってからも、相手のいいところを自然と探してしまいますね。デザイナーの肩書がなくなったいま、人と人とのつながりで個展を開き、シゴトを開拓していますが、最初に相手のいいところを見つけられると、人間関係も円滑に進むし、長いつき合いになることも多いんです。

それから、相手の話をよく聞くことも学びました。おしゃべりが好きで、人の話を聞くのは苦手だったんですが、販売員としてお客さまの不満や、探している物の情報を聞き出すようになってから、相手の話をしっかり聞くようになりました。今でも、初めてお会いする人には、販売員モードになります(笑)

絵を褒められるのは、自分が褒められるのと同じ

なぜ絵を描くかって、やっぱり「褒められたい」から。私にとって「絵」は自己投影。自分の好きなものを紙に映しているため、絵が褒められるのは、私のことが“好き”と言われているのと同じです。私自身が褒められていることとイコールなんですよね。

アーティスト活動をする上で、大切にしている言葉があります。イギリス留学時代、デザイナーに向いていないんじゃないか、と悩んだ時期に、先輩に言われた言葉です。「人生には何ひとつ、ムダなことなんてないんだよ。もし、ムダなことがひとつだけあるなら、何もしないこと」。そして、何においてもトップを目指すことだけが成功ではなくて、自分が納得できる目標に近づければ、それは成功なんだよと教えてくれました。もし、何も試していない、失敗もしていないのなら、目指すべき目標に近づくことさえもできない。失敗も反省もプラスに変えられるのなら、失敗を恐れず、自分の価値観を信じて進もうと思うようになったんです。

海外まで活躍の場を広げたい

2016年は、これまで描き溜めた絵を発表する時期だと考えています。個展やグループ展で、たくさんの作品を発表していくつもりです。まだ都内がメインですが、今後は地方や海外まで活動の場を視野に入れて、作品を発表していきたいですね。

最近のテーマは「Colourful Black(色とりどりの黒)」。自身のスタイルで絵を描くにつれ、黒一色で鮮やかさを表現することができないかと思い、線の細さや強弱、重なり、構図で彩りがあるかのように錯覚させる作品を多く生み出すようになりました。モチーフに花や生物が多いのは、祖父が庭師だったこともあり、生家の裏に林があって、幼いころから花や昆虫がとても身近だったことに由来しています。

企業デザイナーを経験してアーティストになっているため、ファッションや雑貨とコラボレーションして、服のテキスタイルにしたり、グッズにしてもいいなと考えています。ユニークな試みとしては、絵に手をかざすと静電気に反応して音楽が流れる特殊なインクを作品に取り込んだり、イラストをタトゥーシールにして、身体をキャンパスに見立て、平面だった作品を立体として表現することもしています。

アーティストとして進み始めたら、こんなところにも道があるんだなと、新しい道を発見した気分。さまざまな分野で関われると気づいたところで、視野が大きく広がりました。これからも、模索しながら、たゆまず歩み続けたいと思います。