天職、見つけた!
興味を大切に、ひとつのことを追い求める。
心が動くのは、目に見えないなにかが、そうさせているから。
#14 [後編]自然写真家
来栖けいさん

プロフィール

来栖けい

美食の王様。1979年埼玉県生まれ。あのグルメ評論家の山本益博氏に「わたしの仕事を超えてゆく新人がついに現れた」と言わしめた稀代の美食家。人並み外れた「舌」と「胃袋」、そして「食への愛情」の持ち、その舌は、食材の原産地の違い、調理法、組み合わせの善し悪しから、コースの組み立てまで分析。正確に味を記憶し、表現する。取材を一切しない独自のスタイルを貫き、著書に『美食の王様 究極の167店 珠玉の180皿』(筑摩書房)、最新刊『美食の王様 ベスト200皿』など多数。


略歴

1979年

埼玉県生まれる。物心がつく前から母方の影響からアンパンを愛し、なにかにつけ食す

1984年
転機

5歳にしてフレンチレストランのデザートと出会い、食に開眼。

1995年

これまで親に連れて行ってもらっていたが、自分のお金で食べ歩きをはじめる

1996年

コンビニなどのバイトでお金を貯め、食べ歩きの資金に

1997年

大学入学。時間に余裕ができ、食べ歩きの経験に磨きをかける

2000年

卒業後、一時、実家へ帰る。ただし週に数回は東京で食べ歩きを続け、その量の多さが噂に

2003年

初の自著『美食の王様 究極の167店 珠玉の180皿』の執筆を開始

2004年
転機

2004年 レストラン、スイーツ、パンを一冊にまとめようとしたものの、おさまりきれず、レストランだけ先行して『美食の王様 究極の167店 珠玉の180皿』が発刊。グルメ界に衝撃を与える

2007年

『週刊朝日』での連載や、『オールアバウト』の「食べ歩き(首都圏)」ガイドを担当するなど、数多くのメディアで活躍。 『美食の王様 ベスト200皿』(筑摩書房)


最近のニュース

2007年に食べ歩いたお店単位ではなく皿単位で星リストを掲載した全国版『美食の王様 ベスト200皿』(筑摩書房)。上野・東京都美術館にて12月14日まで開催されている『フェルメール展』にて、フェルメール×ロブション×来栖けいでスイーツをコラボ。ウェブサイトで参加者を募集する食事会を開催。

『美食の王様 ベスト200皿』
『美食の王様 ベスト200皿』
筑摩書房
1365円(税込)


影響を受けた言葉


「磨斧作針」

斧を磨いて、磨いて、針を作る。相当大変ですよね。普通では考えられないこと。でも、毎日のように根をつめてやれば、絶対いつかはできるんですよね。その“いつか”は何年先になるのかわからないですけれど。どんな困難なことでも、忍耐強く努力すれば、必ず成功する!


あなたにとって、バイトとは?


「自分で稼いだから 使うときも真剣」

やりたいことや目標は、お金をかけないとできないもの。バイトで自分が稼いだ金だからこそ、当たり前と思わないし、真剣になれる。バイトはすごく得るものが大きいんじゃないかなって思います。



TEXT:古関千恵子 PHOTO:森浩司

職業は、美食の王様。神が与えた天性の“舌”と強靭な“胃袋”をもち、あのグルメ評論家の雄・山本益博氏をして、「わたしの仕事を超えてゆく新人がついに現れた」と言わしめた来栖けいさん。すべて自費で食べ歩き、主観で皿を評価する独自のスタイルを確立するまでの道のりを語ってもらった。

来栖けい

すべて自費で食べ歩き、昨年だけで1万皿以上
皿ごとにピンポイントで主観をもとにランク付けをする

 僕の仕事のスタイルって、すごく稀なんです。仕事と思って食べ歩いていることは全くありません。食べに行くのは、全部プライベート。一般的に食について書く人は取材をすると思うんですけれど、その場合、出版社が経費として支払いをもってくれますよね。でも、僕は取材を一切しない。全部、自腹。あそこで食べたあれが美味しかったから紹介しようかなと、あとになって仕事にしてしまう。行きたいところに行って、紹介したいところだけを紹介するスタンス。写真が必要な記事ならば、カメラマンさんにこの料理を撮ってきてくださいとお願いして、僕はその場へ行かずにかつて訪れたときに感じたことを文章に書いちゃう。 そして、お店単位で紹介はしないんです。たとえばそのお店のある一品はとてつもなく美味しいけれど、この一品はまぁまぁ美味しいというのもあって、全品が同じ水準というわけではありません。だから「ここの○○が美味しい」「○○を食べるならこのお店」とピンポイントで教えてあげる。 4月に発刊した『美食の王様ベスト200皿』は、毎年更新する予定なんですけれど、2007年に食べたベスト。1年間でケーキを抜いても1万皿以上は食べていますから、1万皿分の200皿。お店じゃなくて、お皿でランクをつけています。だから、同じお店がかぶっていることもあります。 『美食の王様ベスト200皿』では写真も食べたときに自分で撮ったもので、掲載許可もなく、勝手に載せています。許可を取ったりすると、「うちはあそこより下だから出さないよ」なんて話が出てきたりして、本当の意味でのランキングが作れなくなってしまうから。勝手に紹介したら文句がくるだろうと思うかもしれないけれど、僕はお店から何かを言われた経験は一度もありません。なぜって、たくさんの中から選んだほんの一部で、自信をもってすすめるお店しか載せていないから、いいことしか書いていない。そして書いていることは、完全に僕の主観だけです。シェフの経歴など取材して聞けばわかる情報は、ほかの本を見てもらえばいっぱい書いてあるのですから。


来栖けい

オーダー時に「お客様、ちょっと量が多いのでは…?」は日常茶飯事
水分のみの体調を整える日を設け、健康管理もしっかりと

こういう仕事の仕方をしていると、お金は正直全然貯まりません。数日前もカードの明細がきて、ショックを受けたくらいで…。 どのお店でも2コースは当たり前で、朝から夜中までいろんなお店を食べとおすことができるので、1日で体重が10kg違ったりするんですよね。自分しかわからないかもしれないけれど、顔形も変わります。でも、食べているときは、これは何カロリーとか、太っちゃうとかは何も考えません。ただ、10年以上続けているルールが、月に必ず調整日を作ること。普段からお茶や水など水分をいっぱい取っているんですけれど、この日は何も食べずに多少カロリーのあるものを飲むだけにしています。水分だけ、です。そして身体の中のものを出す。これをやらないと、だめですね。でも正直、4年前と比べたら、体重は右肩上がりですよ。だから僕は常に危機を感じています。この分で行ったら、30年後には100kg!みたいな(笑)。 これまで挫折はないけれど、トラブルはたくさんありましたね。オーダーする量が多過ぎるのが原因して。大概のお店で最初に「そんなにいっぱいは無理です」って言われるんです。僕的には厨房のことを考えるんですよ。たとえば肉を途中で追加注文しても、冷蔵庫から出したての冷たいものはすぐに焼けないとか、シェフのだんどりがあるとか。 品川のアロマクラシコ(現アロマフレスカ)でも、かつてこんなことがありました。 ここは炭火焼がメインで、ポーションがでかく、一皿でも多いくらいなのに、僕はメインの肉料理だけでも7種類をたのみました。対応したスタッフが困惑して、支配人まで出てきて「絶対に無理です!」とまで言われて。だから仕方なく「わかりました、このひと皿にしますが、食べられるようでしたら、追加してもいいですよね?」と。もちろん、結局は7品食べましたけど。肉だけで数kgです。後になって、その時厨房にいた原田シェフと話す機会があったのですが、彼も「どう考えても食えないよな」って思いながら肉を焼いたことを覚えているそうです。その一件からは多めのオーダーがきても、かつてなら「ちょっと多いのでは?」と言ったのが、「あ、いいんじゃないの?」に変わったそう。今となっては、笑い話ですけど。それから僕も、オーダーの仕方を最初はなるべく控えめにしようと心がけています。食べる前にもめちゃうと、せっかくの料理が美味しくなくなっちゃいますからね。

 


来栖けい

やりたいことだったら、身を削ることもつらくない
はずれを体験してこそ、本当にいいものがわかる。自分を信じて!

もし、これが好きだと思うことがあるなら、それを信じて、それに向かってがんばった方がいいと思います。すぐに結果は出ないかもしれないけれど、いつかはチャンスはやってくると思う。それを生かせるか、どうか。僕は運の手助けもあって、今の仕事に就けましたが。人生は一度きりだし、やりたいことをやった方がつらいことにも耐えられますよね。その意味では、身を削ることも出てきます。僕はつらいとは思わないけど、使うお金の量といったら相当な額です。貯めていたら、一体何に使えたの?って。当時はそうは思っていなかったけれど、これはいわば自分への投資だったんだなって思います。振り返ってみれば、訪れたレストランの半分以上がはずれでしたね。「損したね」みたいなことを言われるけれど、はずれを経験しておかないと、本当にいい店がどれだけすごいかがわからないもの。だから、それは無駄じゃない。しっかりした分母を築けたから。ある程度の数を行ってないと、その良さがわからないんですよね。今は、行きたい店、好きな店は何度だって行きます。仕事モードがまったくない。「同じ店にそんなに通ったって意味ないじゃない。その分、新しい店行った方がいい」と言われることもあるけれど、「新店ができたから行かなくちゃ!」とは全く思わないし、でも気になれば行くし。僕の場合はお店単位で考えていないから、皿単位で考えているから。
そして僕は食を主観で判断します。流行にも絶対流されない。みんなと同じ色に染まりたくないから。だから、ほかの意見に惑わされることもありません。僕が思ったことだけを文章で書いているので、取材して人から聞くこともないし、聞いたことで左右されることもない。そういう意味でやりたいように僕はやっています。正直、よくなりたっているよなぁって自分でも思いますけど。 やりたいことをやるには、自分の身も削らないと。食べることのありがたみ、料理のありがたさがわからないと、思うんですよね。

前編はこちら


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