元外食大手の人事担当役員が語る、大学生アルバイトを社員登用する手法

外食産業の人材不足が加速していくなかで、どうやって人材を確保していくのかは各企業が持っている課題となっています。その課題を解消するひとつとして優秀な学生アルバイトに、そのまま自社の社員として採用して働いてもらう方法があります。

そこで今回は、某大手外食チェーンの人事担当役員の経験を持つ、現パーソル総合研究所・取締役副社長の櫻井功さんに、学生アルバイトの社員登用におけるメリットについてお話をうかがいました。「自社で新卒採用に苦戦しているにも関わらず、店舗でバイトしている学生たちが他企業に就職していくということに対して、店舗責任者や経営陣が『仕方ない』と諦めるのではなく、優秀な学生アルバイトはそのまま社員として迎え入れることを検討するべきだと思います」と櫻井さん。それでは具体的にどのようなノウハウや考え方なのかお話を聞いてみましょう。

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お店で働くアルバイトをそのまま正社員として採用するメリット

――櫻井さんが外食チェーンの人事責任者だったころ、アルバイトの社員登用を積極的に推し進めたそうですね。その理由について教えてください。

長期間、アルバイトを続けている人であれば、一部の管理責任や業務を除いて、仕事内容は正社員と大きな違いがありません。となれば、経験のない方を新卒採用するよりも、アルバイト経験のある大学生を正社員にすることのほうが組織全体の底上げができます。

まずアルバイトを社員登用するメリットとして、会社が新卒採用にかけている「採用コストの軽減」がひとつ挙げられます。さらに、アルバイト経験があるために初日からすぐ働けるスキルをすでに持っている方々を採用するのですから、特別な教育を施す必要がないという「教育コストの軽減」もあります。

また、社員になる意思のある学生は内定が出た時点で就職活動を終了させますから、現場の店舗からすると就職活動に伴う学生バイトが抜けたシフトを調整する必要もなく、学生にはそのままシフト通りに働いてもらうことができます。つまり、現状のサービス品質を下げることなく、人材不足に陥るリスクも回避できるのです。もうひとつ、アルバイト経験により職場を知っている方々ですから、社員になってからの早期離職率も抑えられるというメリットもあります。

実は店舗のアルバイトは「人材の宝庫」だった!?

――まさに、良いことづくめですね。しかし、そういった取り組みが行われ始めたのは最近であると聞きます。どうして、もっと早く取り組んでいなかったのでしょうか。

雇用側に、アルバイトと社員の採用は別だ、という固定された先入観が少なからずあったからではないでしょうか。「バイトなんて、辞めてもまた採用すればいいや」という程度にしか見ていないので、店舗で働くアルバイトを将来の幹部候補とは考えていない。一方の幹部候補については、「新卒の採用ルートで」という先入観に縛られているので、アルバイトと結びつけて考えていなかったわけです。

そのため、せっかく目の前にロイヤルティが極めて高い人材がいるにもかかわらず、高いコストをかけて採用メディアを使い、経験のない人を大量に採用しているわけですね。当然ながら、そうして採用した人たちのなかには飲食業現場の全体を知らずに、客として知っている表側の接客の「良い面」だけを信じて入社する人もいるので、裏側のハードな面を体感しギャップにショックを受けて辞めてしまう人もいます。

しかし足元を見ると、実はアルバイトのなかにも優れた人材がたくさんいることに気づくわけです。つまり、“将来の幹部候補となる新卒”の条件そのものという人材、原石が目の前にごろごろしているんですね。

 

――わざわざ外部から採用しなくても、「宝の山」がすぐそこにあったというわけですね。

そうです。しかも、外食産業でアルバイトをしている方というのは、クレームを受けたり、水や油にまみれることもある仕事という事実を知った上で働き続けているわけですから、仮に社員になっても仕事を誤解しているということは少ない。店舗での仕事に慣れていて、さらにマネジメントの方面にも進むことが期待できる人材……となれば、こうした人材を、みすみす別の企業に渡してしまう手はない。ですから、アルバイト採用、特に大学生アルバイトの採用というのは、企業にとって新卒社員をとることと同じくらい重要なファクターなのです。

社員登用にとって大切なのは、社員とアルバイト双方の意識改革

――それでは、大学生アルバイトの社員登用を促進するために、具体的に取り組まれた施策についてお聞かせください。

まずは雇用しているアルバイトの情報を現場から収集しようとしました。しかし、これがなかなか大変でした。店長含め社員が、一緒に働いているアルバイトの誰々はそもそも大学生か、大学生なら何年生なのか……という情報すら持っていない。とにかく「確認してください」と指示してリストを提出させたのですが、大学生アルバイトのメールアドレスもわからない状態ですから苦労しましたよ。そのため翌年から、アルバイトの契約更新の際、個人情報のガイドラインに沿った上でメールアドレスを記載してもらうようにしたので、それからはうまく回り始めました。

ここまでは雇用する側の意識を変えることの重要性について述べましたが、一方でアルバイトをしている学生側も、働いている場所を「アルバイト先」としか見ていないため、「将来就職する企業」とは考えていないという現実があります。こうした考えを変えてもらうには、アルバイト先を早くから将来の就職先として意識してもらうことが必要です。そこで、アルバイト採用時の入社パッケージには、働く店舗の情報だけではなく、企業全体の情報をきちんと組み入れることにしました。たとえば「あなたがアルバイトをしている会社は、実は××××億を超える売上があり、全国でアルバイト・パートも含めると××万人の従業員がいる。幅広い業態があって、福利厚生はこうで……」という、会社の全体像を見せるのです。またこうした情報は、大学生アルバイト本人だけではなく親御さんにも必ず見ていただけるように伝えました。親の反対により応募をしないケースもあるため、親御さんにも企業全体を正しくご理解いただく必要があると考えたからです。採用プロセスについても、面接回数を少なくするなどの優遇策を設けました。

外食産業に誇りを持って働いてもらうことが、若者を惹きつける魅力になる

――経営層や店長たちが単独で採用に動くのではなく、連携した採用活動が必要になってくるわけですね。

その通りです。これまでの「なんとなく」のやり方では人材を確保できない時代です。まずはその意識を強く持つことが重要で、具体的な行動はそこから始まると思います。

私の在籍中、年間で5万人程度の人の出入りがありました。つまり、5万人を採用して5万人が辞めていきます。「5万人辞める」というと驚かれると思いますが、その中の多くは学生が卒業して社会人になるタイミングでの退職です。ですから、20年という単位で見ると数十万人もの学生が、社会人として必要なコミュニケーションスキルを身に付けて、次のステージへと巣立っていったわけです。私が人事担当役員をしていた一企業だけでもそのくらいいるわけですから、外食産業全体では途方もない数字です。そういう意味では、外食産業は大きな「社会の教育インフラ」ともいえるのではないでしょうか。

外食産業に従事する人たちには、そうした誇りをもっと持ってほしいと思います。しかし、現状は誇りを持つどころか、「優秀な人材はこんな業種や職場に来ない」というネガティブな思い込みがある人が多い気がするんですね。確かに、もっと給料が高い業種はあるかもしれません。しかし、給料の多寡によって仕事の価値が決まるわけではないはずです。人間に絶対に必要な「食」を支えているサービス産業であるという意識と誇りを多くの人が持つようになれば、若い方が「自分も働いてみたい」と思えるような魅力あふれる業界になっていけるのではないでしょうか。

まとめ

現在の人材を採用するのが難しい売り手市場では、優秀なアルバイトを社員として囲い込むことにより、得られるメリットはとてつもなく大きいはずです。アルバイトからの社員登用は、採用や教育にかけているコストの削減や、継続した質の高いサービスの提供、また離職率の低下につながるため、もっと経営層や店長目線から意識改革をしていく必要があります。

まずは、経営層側が、現在店舗で働いているアルバイトの情報を把握すること。そして、アルバイトをしている学生側に「就職する企業」のひとつとして意識してもらうために企業全体の情報を伝えることが大切です。

また、店舗側でいうと、アルバイトの目の前にいる現場社員が、日本の「食」を支える自らの仕事に対して誇りを持って働くことで、若い人に「自分も働いてみたい」と思ってもらうことができるようになります。まずは外食産業の素晴らしさについてあらためて見直してみるのもよいのではないでしょうか。

 

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