【対談】
若者研究家・原田曜平×「an」編集長・上土達哉

バイト観のリアルから知る今どきの若者の気持ち

現在アルバイトの現場では、採用難が叫ばれており、とりわけ人口が減少していく時代の若者には、採用方法の工夫をすることだけでなく、できるだけ長くアルバイトを続けてもらう努力が必要だ。そのためには、若者の価値観を理解し、よりよいマネジメントを実現するためのコミュニケーションが重要になってくる。そこで、『an』編集長・上土達哉の対談相手としてご登場いただいたのが原田曜平氏。博報堂ブランドデザイン若者研究所のリーダーを務め、大学生を中心とする若者の価値観、行動トレンドに詳しい原田氏の分析を通し、現代の若者の価値観、若者とのコミュニケーションのあり方にフォーカスを当てていきたい。

(1) 若者が何より大事にするのは、
コストパフォーマンス(お金)よりタイムパフォーマンス(時間)


上土達哉

現在、アルバイト・パートの求人は極めて採用難な状況です。
採用する企業側には、アルバイトの重要なターゲットである若者の考え、行動を把握することが強く求められています。
本日は若者に詳しい原田さんに、いろいろな知見をお伺いできればと思っています。
原田さんは、普段はどんなことをされていますか?


原田曜平

博報堂ブランドデザイン若者研究所(以下 若者研)で、若者の研究と、その知見を活かして様々な企業と若者向けの商品開発を行っています。若者研には首都圏に住む大学生を中心とする若者100名程度が所属していて、私は彼らと日々協働しつつ、若者の新しいトレンド、消費性向を研究しています。
彼らの生活の一部である「アルバイト」についてもいろいろな現実を目にしているので、そこでの経験も踏まえてお話させていただきます。


上土達哉

まず、『an若年層白書2015』の調査結果から見ていただきましょう。次に挙げるポイントが、若者のアルバイト選びの際に見られた、特徴的な傾向です。

1.シフトの融通を気にする若者


原田曜平

なるほど…私の実感ともかなり合致しますね。
「シフトの融通を気にする」のは、確かにそうです。
現在の大学生の重要なキーワードに「タイムパフォーマンス」というものがあるんですよ。


上土達哉

コストパフォーマンス、いわゆるコスパではなく、タイムパフォーマンスとは、どういう意味でしょうか?


原田曜平

「貴重な時間を最も有意義なことに使いたい」ということですね。
以前の若者は、上土さんが言われたコスパでバイト選びをしていましたね。
引っ越しバイトは肉体労働で辛いけど、1日頑張れば1~2万円はもらえる、と。これがコスパ重視です。
しかし、タイムパフォーマンス重視だと、「シフトの融通がきく」バイト選びに重きが置かれます。
これは、ソーシャルメディアが普及したこの5年、とても顕著になってきています。


上土達哉

ソーシャルメディアの普及とリンクしているんですね。
つまり、つながりが増えたことと密接に関係している、と。


原田曜平

その通りです。TwitterやLINEなどを活用していくと、浅い付き合いも含めて友人の数が猛烈な勢いで増えていきます。
それは「いろんな人に誘われる機会が増える」ということです。彼ら彼女らは、「今渋谷だけど、すぐに遊べる人いる?」といったように、不特定多数に一斉に呼びかける。そこでレスポンスを返してきた人と会って遊ぶんですね。


上土達哉

計画を決めて行動するより、その時その時に出くわしたものを選択していく。
それが行動パターンになっているわけですね。


原田曜平

若者はよく「場面」という言葉を使うのですが。まさにその通りで、場面場面で行動を決めていくんです。
そんな場面行動においては、誘われたら常に行ける状態をキープしておかなければなりません。


上土達哉

なるほど。バイトのシフトがカッチリ決まっていると動きにくいですからね。
「シフトの融通をすごく気にする」ことになるんですね。


原田曜平

私や上土さんの世代だと、大学の授業とサークル、ゼミとスケジュールがシンプルだからシフトも組みやすかった。
しかし、今の若者は人間関係が広がっていて、大学の友人だけでなく、中学から付き合ってる地元の友人、ネットで知り合った友人だっています。いつ何時でも反応できることに、大きな価値が置かれるようになるのは当然なんです。

2.バイトイメージ(おしゃれ、自分に合うイメージ)を気にする若者


原田曜平

これも重要なファクターです。これもソーシャルメディアの普及によるものですが、パンケーキ屋さんやカフェなど、おしゃれなところで撮った写真をソーシャルメディアにアップするというのが彼らのライフスタイルになっていて、おしゃれ度を競い合うという傾向があります。そこでは、バイト先もおしゃれなほうが、スクールカーストでも上に行けるんです。


上土達哉

たしかに、おしゃれで人気な某カフェのバイトをすることが、いま一番イケてること、という話はよく聞きますね。
休日にバイト仲間と集まってバーベキューをしているのをinstagramにアップしている様子も、羨望の的であるようです。


原田曜平

あと、上の世代にはピンとこないかもしれませんが、意外と制服って大事なんですよ。
制服がかわいいカフェ、浴衣を着て働ける居酒屋など、バイトの制服におしゃれ感を求める動きもあります。しかも、これは女子に限りません。ハロウィンを見ても、男子が当たり前のようにコスプレする時代ですからね。


上土達哉

そうですね。女子はだいぶ以前から巫女さんなど制服が珍しい、かわいいバイトが人気ではありましたが、男子もギャルソンのエプロンを着れるレストラン・バーテンダーのバイト、甚平を着れるバイトなど、「カッコいい」制服が注目されていますし、そのような制服を提供するお店も増えていますね。

3.一緒に働く人の雰囲気を気にする若者


原田曜平

私たちの世代、その上の世代もそうですが、バイトの目的は「労働の対価として得たお金で好きなことをする」ことにありました。時給は高いほど良く、コスパが重視されていました。
しかし、今の若者は雰囲気をすごく大事にします。もちろん「時給は低くてもいい」わけではありませんが、「雰囲気の良くないところだけど高時給だからガマンして働こう」とは決してなりません。


上土達哉

お金を稼ぐための手段というより、ライフを充実させるための手段がバイト、ということですよね。


原田曜平

知り合いと一緒にバイトに申し込む「連れバイト」という現象が最近よく見られます。
最近は、美容院でも友達同士で予約する若者が多いというんですから。
横に座って、カット中の写メを撮るんですって(笑)。


上土達哉

我々の世代だと一人でするようなことですが、友達と一緒にすることによって、より楽しいイベントにしているんですね。


原田曜平

その通りです。もともと仲が良い友だちがバイトに入ったら、バイト先の雰囲気も楽しいものになるのは間違いありませんからね。バイトにおいても仲間と楽しくコミュニケーションをし、「お金をもらうという結果」よりも、そのプロセスを楽しみたいんです。


上土達哉

なるほど。たしかに「だれと仕事をするか」というのも仕事の楽しみのひとつですからね。


原田曜平

ここまで雰囲気重視に傾斜したのは、今の若者がある程度満たされている現状が背景にあります。
日本経済はこの20年ほど不況で苦しんできていますが、それでも若者は上の世代より確実に豊かです。
今の50代の方でしたら、大学生時代は冷房なし風呂なしが当たり前だったでしょう。
今の大学生で、そんなアパートに住んでいる子は極めて少ない。ベースが満たされているから、バイトにもお金をそれほど求めません。満足度、プロセスを楽しむことを重要視するようになるわけです。


上土達哉

若者がアルバイトを選ぶ際に、複数の情報源を駆使していろいろな情報を集めるのは、自分の時間を使ってライフを充実させることへの真剣度の表れなのではないか、と感じました。

(2) 若者とアルバイト先の店長・上司のコミュニケーションギャップの解消方法は?


上土達哉

ここからは、アルバイト先の店長や上司のマネジメント側が抱える問題についての対処を考えていきたいと思います。
「an若年層白書2015」では、アルバイトの満足度にはマネジメントが大きく影響し、不満の内容は「態度が良くない」「指導方法が良くない」など、コミュニケーション方法についての問題が目立ちました。
この問題を解決するために、アルバイト現場での若者とのコミュニケーションのあり方について、お伺いします。

若者のアルバイト先での、店長・上司のマネジメントの不満ランキング

若者のアルバイト先での、店長・上司のマネジメントの不満ランキング

「時代背景が違う=価値観が違う」世代間ギャップを認識する


原田曜平

この問題は、世代間のギャップによるところが大きいと思います。
企業の現場では、50歳前後のバブル世代と新入社員の間で深刻なコミュニケーションギャップが指摘されています。
毎年給料が上がっていくのが当然だったインフレ・バブル世代と、下がっていくかもしれない不安を抱えるデフレ世代では、ベースとなる考え方が違ってくるのも当然のことでしょう。


上土達哉

確かによく聞く話です。
そのギャップは、具体的にどのような場面で表れるのでしょうか。


原田曜平

バブル世代は「若いうちは自分に投資しろ」とよく言いますね。「長い休みができたら給料をつぎこんで海外に行って来い」「背伸びをして高いワインを飲んでみろ」と。彼らの言い分は、「若いうちに積んだ経験は必ず自分のためになる」「その投資は何倍にもなって戻ってくる」というもの。しかし、そう言われると新入社員はすごく違和感を覚えます。「後で返ってくる? その証拠はあるんですか?」というのが、彼らの言い分です。
バイトの現場でも、「店が儲かったらお前に還元できるから頑張ってくれよ」と心意気に訴えても、きっと伝わらないでしょうね。


上土達哉

う~ん、なるほど。
両方の世代にはさまれた私たちの世代は、両方の意見にうなずけるものがあります(笑)。


原田曜平

満たされて育ってきた彼らではありますが、終身雇用・年功序列といった右肩上がりの明るい未来像は持っていません。
「今使ったらホントに戻ってくる? なくなっちゃうだけじゃないの?」というのがデフレ経済の価値観です。
「若いうちはお金を使え」「大志を抱け」と言うこと自体は悪いことではありませんが、背景が違うことを理解しなければ。そこに過度な上昇志向を持たせようとするとコミュニケ―ションギャップが起きてしまいます。


上土達哉

自分が生きてきた時代と、今の若者が生きている時代は違うということを認識しよう、ということですね。
時代背景が違ってきている中、若者と良好なコミュニケーションを築くためにはどうしたらいいでしょうか?

絶対的な仕事の「信頼感」と距離の近い「親しみやすさ」の両立!?


原田曜平

そうですね…プロ野球の監督像の変遷にヒントがあるんじゃないかと私は考えています。
最近でも、野村克也、星野仙一、落合博満といった監督までは昭和の匂いが残っていましたね。
厳しく接し、しっかりしたヒエラルキーの下で距離を持って選手と接していく。選手は監督を畏怖しますが、「言っていることに間違いはない」「ついていけば優勝できる」という信頼感があった。
彼らまでを第一世代とすると、第二世代の原辰徳、栗山英樹らはぐっと選手と距離が近くなります。
兄貴分として接しているイメージがありますね。もちろん十分な実績を残していますが、第一世代ほどの安定感には欠けます。「言っていることをそのまま飲み込んでいいのか?」という不安定さがあります。


上土達哉

第一世代は信頼感があるけど距離が遠い、第二世代は距離が近いけど安定感に欠ける…
つまり、新たな第三世代の上司、マネジャー像が求められているということですね。


原田曜平

そうです。
「絶対的な信頼感がありつつ、距離が近い」というのが第三の上司像になるでしょう。


上土達哉

強烈なリーダーシップと、話しやすい距離の近さ。
これを兼ね備えるのは大変そうです。


原田曜平

確かに、ちょっとハードルが高そうに見えますね。しかし、先が見えない不安定な時代ですから、言動に説得力がなければ部下はついてこない。一方、ソーシャルメディアの時代は、ヒエラルキーの厳しいタテ社会ではなく、フラットに付き合えるヨコ社会です。先述の通り、人間関係、雰囲気を無視して上司・部下の関係は成立しません。

叱る時は、「会社のため」ではなく「若者のために」叱る


上土達哉

マネジメント側は、若者とどのようにコミュニケーションを図っていけばよいのでしょうか?


原田曜平

私自身が実践できているかどうかは分かりませんが、若者研でどう大学生と接しているかをお話します。
彼らと私は企業とタッグを組み、大きなお金が動くプロジェクトに携わります。しかしそこは学生です。
飲み会明けに酔ったまま来たり、企業の方との会食で羽目をはずしすぎたりする学生もいるんです。その時は非常に厳しく接します。そこで重要なのは、彼らの将来に直結させて叱ることです。自分の怒りや「会社のために」怒るのではなく、「将来会社に入社した後でこんなことをしたらどうなると思う?こういうふうにしたら、会社に入ってもうまくいくんじゃない?」というように、ミスを「社会人になった時の自分ゴト」として感じてもらうようにしています。


上土達哉

なるほど。ただ怒るのではなく、その子のモチベーションをより引き出せる叱り方のように感じます。
最近の若い子は将来不安があって真面目なので、将来につながることはものすごく努力する傾向がありますものね。


原田曜平

怒った後には必ず次のチャンスを与えています。
そして、飲み会などオフの場では、自分が徹底的にいじられるキャラになるんですよ。


上土達哉

叱責の後のケアと言うのはいつの時代でも普遍的なことですが、飲み会でいじられキャラの上司とは…今どきです(笑)。


原田曜平

学生が「おいハゲ、ビールを持ってこい!」とか飲み会の席で言ったりするわけです(笑)。
仕事では引き締め、オフではゆるめる。こうして、仕事では第一世代上司のように厳しく接し、オフでは第二世代上司のように近い距離感で接していく。若者とのコミュニケーションという意味では、これが正解に近いのかな、と今のところ思っています。


上土達哉

マネジメント側にはオンとオフのバランス、距離の近さが重要だということですね。
上から目線ではなく、フラットに接していく、と。


原田曜平

社員旅行への参加を望む新入社員が増えているという話もあります。若者が飲み会に参加しない、という現象が注目されていましたが、今はひと巡りして人との結びつきを求めている時代になってきたと感じています。
また、若者を盛り上げ役にする、という施策もいい方法だと思います。サークルのリーダーを務めているような盛り上げ上手な学生を抜擢し、資金の援助をして飲み会を開催してもらい、学生同士の士気を高めてもらうんです。


上土達哉

たしかに同僚の仲の良さも、アルバイトの満足度を高める重要な要因です。
バイト同士でLINEを活用してシフトを調整して助け合っている、という話も聞きますし、関係性を良好にする施策も、今まで以上に重要になってきそうですね。


原田曜平

そうですね。仲が良いと助け合って士気高く続けてくれます。

対談を終えて ~若者にとって有意義なアルバイトにするために~


上土達哉

本日はお話をおうかがいし、時間を有意義に使いたいと考えている若者には、アルバイト現場が自身にとって意味のある環境だと思えることが、アルバイトを長く続けてもらうために重要になると感じました。
また、若者を叱る時は「将来のことを思って叱る」ことを理解してもらうとモチベーションアップにつながる、というお話を聞いて、「an」でも若者に「アルバイトで経験を重ねることが将来のためになる」ことを発信し、理解促進をしていきたいと感じました。


原田曜平

若者はどんどん変わっていくので、変化に気づけるように意識することは今後ますます重要です。


上土達哉

若者とコミュニケーションを取り、志向性や価値観や性格を理解していくことが、採用の場でもマネジメントの場でもますます重要になってきていますね。本日はどうもありがとうございました。

プロフィール
  • 原田曜平

    原田曜平
    1977年生まれ。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。若者研究およびマーケティング・商品開発の専門家。著書に『さとり世代 盗んだバイクで走り出さない若者たち』(KADOKAWA)『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎)『日本初! たった1冊で誰とでもうまく付き合える世代論の教科書―「団塊世代」から「さとり世代」まで一気にわかる』(東洋経済新報社)(共著)など。日本テレビ『ZIP!』に出演し、若者を開設するコーナー「アレナニ?」を担当。
  • 上土達哉

    上土達哉
    1974年生まれ。1999年、新卒にてインテリジェンス入社。人材紹介事業部門にて、キャリアコンサルタント、リクルーティングアドバイザーとして経験を積んだ後、IT領域の責任者を務める。その後、アルバイト情報サービスの「an」を運営するメディアディビジョンにて エリア営業部門責任者、首都圏営業部門責任者を務めた後、株式会社HITO総合研究所 社長執行役員などを経て、2015年10月より株式会社インテリジェンス メディアディビジョン ディビジョン長に就任。2015年2月には、「LINEバイト」を運営する株式会社AUBE代表取締役社長就任。

文・佐々木正孝
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のもの。

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